トークイベント『愛媛の建築について』宮内健志(1)
松山「ケミビル」で不定期に開催されているイベント「知らなくても楽しい、知ったらもっと楽しい○○の世界」。 10月11日に、第4回目となる同イベントで『愛媛の建築について』のテーマのもと、白石卓央、宮内健志と宮畑周平さんの三人で、愛媛の建築やデザイン、地域の素材など様々な観点でトークを行いました。
本記事では本ブログの共同執筆者である宮内健志によるトークの内容をお伝えします。
自己紹介
宮内です。白石さんと一緒にブログの更新をしたりしています。私は愛媛県の松前町で生まれ育ちました。自分の祖先をたどると郡中の宮内小三郎邸という古い建物があり、元はそこの家系のようです。もちろん分家ですが、小学校5年生の時に父親と自由研究で自分のルーツを調べました。宮内小三郎邸の敷地内には隠居と言う建物があり、その隠居は臥龍山荘を建てた中野虎雄と言う名棟梁が手掛けたものです。普段は見られません。その臥龍山荘の施主でもある河内家と郡中の宮内家は遠縁の親戚らしく、僕からすると臥龍山荘は親戚の別荘ということになります。
この宮内小三郎邸の主屋は2017年に改修されギャラリー、ミュージアム、コミュニティースペースとしてミュゼ灘屋という名前で現在はオープンな場所になっています。建物の中では改修前の様子の展示などもしていますし、サッカーだったりラグビーだったりパブリックビューイングもしています。そのようなイベントにはまだ行ったことがないのですがこれは実際に白石さんと訪れた時の写真です。
現在は今治市菊間町の工務店で働いています。
小さな工務店なので設計しながら現場監督もやっています。これは今年の6月に竣工した住宅です。菊間町が見渡せる高台からいい写真が撮れました。僕も写真が好きなので今回紹介する写真は全て自分で撮った写真です。
自己紹介の延長で、好きな建築を紹介したいと思います。
写真は高知県にある竹林寺の納骨堂です。竹林寺は四国八十八カ所の三十一番札所です。このお寺の中に堀部安嗣さんが設計された納骨堂があります。この建物は2016年に日本建築学会賞を受賞しました。建物の特徴でいうと、建物全体がかなり低く、中に入るとさらに床がどんどん下がっていきます。潜っていく建物なのですが、浮いたようなデザインが所々にあります。これは人が死んだ後、地に帰るのか天に昇るのか、そういった思想を建築を通して問いかけているのではないか僕は思っています。
もう一つ高須賀晋さんという建築家の設計で広島にある建物、木造の渋いステーキ屋さんです。僕は総じて木造の渋い系が好きなのです。
「構えている建築」
愛媛の建築についてお話ししていきます。
これは亀老山展望台といって、今治市大島にある隈研吾さん設計の展望台です。1994年にしまなみ海道の開通前に作られたものです。隈研吾さんは現在日本で最も有名な建築家であるといえます。その隈研吾さんの作品は新国立競技場をはじめ、木材をふんだんに使ったインパクトのあるデザインが有名ですが、この建築は峠の中に埋め込まれたような建築になっています。94年なのでかなり前なのですが、当時隈さんは、「反オブジェクト」と言っていました。建築家が立派な建物を建てるのではなく、亀老山自体がオブジェクトだから、ここには派手な建築はいらないと言ってこのような建築の形になっています。今の隈さんのやっている事はオブジェクト的なので、時代が変わっていますが、この時言っていることがと現在作っているものは全然違うなという印象です。
亀老山展望台からはいい景色が見られます。展望台と言えば愛を誓う南京錠ですが、亀老山展望台は南京錠禁止です。禁止なのですが、ちょっと探すと設備のボックスの中に南京錠があったりします。
おもしろい見所ポイントです。
この写真は鬼北町役場です。アントニン・レーモンドというチェコ出身のアメリカ人で日本の近代建築にものすごく貢献したと言われている有名な建築家がいますが、そのレーモンド事務所の設計です。そのレーモンド事務所で働いていた中川軌太郎さんという方が鬼北町(旧広見町)出身で、愛媛の片田舎にレーモンド事務所設計の役場があります。この建物は2016年に耐震改修を行っており、壁を増やしたり、屋根の荷重を減らしたりたくさんの工夫がされています。
町議会室にはHPシェルという双曲線を用いたふたつの放物線を描いた天井があります。壁と天井の間の三角のところにはステンドガラスがはめてあり、カラフルな色が時間帯によっては下に落ちてすごくきれいな空間になります。一緒に行った人はこの議場なら未来のことを語りたくなりますねと言っていました。
次は愛媛の建築家です。先程までは全国や世界で活躍していた愛媛にある建築でしたが次は愛媛で設計している方の建築を紹介します。
これは砥部町にいる和田耕一さんが設計した西条市にある鉄道博物館です。和田さんも渋い木造系です。丸太を引き裂きながらボルトで金結し大空間をつくる構造です。
次は大洲市にある少彦名神社の参籠殿です。これは1934年(昭和6年)に完成しており2014年に改修され世界危機遺産にも指定されています。先ほど紹介した臥龍山荘を設計した中野虎雄さんの義理の甥っ子にあたる中野文俊さんという方が設計しています。参籠殿が完成する前年に中野虎雄さんは亡くなっていますが、設計にも携わっていたのではないかと言われています。何と言ってもこの懸け造りが特徴です。懸け造りで有名なのは京都の清水寺などがありますが、少彦名神社の参籠殿は床の約9割がせり出ており日本で一番せり出ている懸け造りだとも言われています。中はガラス張りで近代的な作りです。
これは参籠殿の板図です。現地で見ることができます。この板図に23104という数字が書かれています。これは改修工事の際、小屋裏から見つかった板図なのですが、この数字が何を示しているのか謎でした。寸法でもなく、年でもなく、何なのだろうと、最終的にはこれだろうと言われているのが、設計した中野文俊さんのフミトシ(23104)サインだと言われています。
次の写真は道後公園内の湯築城跡にある休憩所です。地元の方の散歩コースで僕が見に行った時も小学生がカードゲームをしていました。この建物をよく見ると2間×4間と言う建築の寸法の事なのですが建物のボリュームをずらしながらシンプルに作っています。抜け感もあって軽やかで梁も細くてデザインされています。
この写真は松前町にある2016年の愛媛国体に合わして作られたホッケー公園の中にある便益棟という倉庫兼トイレです。ホッケー公園がメインであって、その中のトイレなので名もない建築なのですが、よく見ると半円形のコンクリート打放しの壁を真ん中でずらし中心にはH鋼とガラスを組み合わせた屋根があるかっこいいデザインの建物です。
「構えていない建築」
ここまでは、見られることを意識している「構えている建築」だったのですが、ここからは「構えていない建築」を紹介したいと思います。それも愛媛の街に潜む、「構えていない建築」です。かつ少し変という。
写真は郡中の群れる家というタイトルを僕がつけました。これは一軒なのですが、増築を繰り返しどんどん建物が増えています。奥の建物は屋根の破風が段々になっていて蔵のようにしっかりしているのですが、その下はバラックのような、仮説住宅のようになっています。
次の写真は三津浜です。溢れ出す軒先園芸です。これはお花屋さんではなく、個人が花を育てています。前面道路の白線ギリギリまで出てきています。この奥の建築も看板建築と言うちょっと良い建築になっています。
次は今僕が仕事にしている現場のすぐ近くなのですが、ベランダの柵が透かしブロックという普通のコンクリートブロックを使っています。向きを反転させながら積んで少しデザインされています。
これは松山ですが、「↑(アゲ)ハウス」と名付けています。建物の周りをぐるっと回ったのですが窓もなく何のためにあるのかよくわからない建物の一部が特徴です。
これも松山市です。住宅街の中にあるのですか、外壁にモルタルを塗っています。左官の技術の中に櫛引と言って髪を解くような大きな櫛を使う工法があるのですが、なみなみに引いた後に直線に引いてそれを繰り返しています。だんだん上に行くと雑になっています。プロの仕事ではないですよね。
これも松山市にある変な建物です。屋外階段があるのですが、階段を上っていくと行き止まりになっています。元は屋根の上に登れたのでしょうが、雨漏りがひどく普通の屋根にしたのでしょう。このように使い道がなくなってしまった不動産のことをトマソンと言ったりします。超芸術だとか純粋階段だとか。詳しい意味はググってみてください。
これらは普段から建築の仕事をしている僕が、街の中にある建築を注意深く見ているので見つけられたものです。普段から街の中にある建物が仕事のヒントになったりするので、面白いなと思って写真を撮ったりしていますが一般の方には伝わりにくいです。風景の中にある無意識で見ているものを、意識する。その意識したものを伝えるために分類分けしてはどうかと考えました。
トークゲスト PROFILE
宮内 健志・みやうち けんし
松前町出身。高知で8年過ごし2014年に帰郷。現在は工務店で働きながら、えひめ建築めぐりのブログを更新中。町の中に潜む独特な建築が大好物。
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